『決闘』          田中章滋  

  天下に聞こえた剣豪の「メイケイ」と「シスイ」がとうとう対決することになった。

 二人とも会う前から予感がしていた。

 早暁、メイケイもシスイも相手を察知した時から、身動きが取れなくなり、互いに蝸牛のように、微速度でにじり寄り続けた。
 
 このまま対峙するなど以っての外だ。怖ろしいにも程がある。互いに背を向けたいと強く願った。

 そして双方剣の届く寸前で構えた。メイケイは上段の構え。シスイは居合。しかし、気配は背中にもあり、逃げれば負けどころか死でしかない。死中に活。
そう同時に思ったが、活即死。互いに口をへの字に曲げて、微動だに出来ない。

 雄鶏が時を作る刻限から、虎鶫(とらつぐみ)が啼き始めるまで、終日見合ったまま。
 
 が、生理現象には勝てない。
 仕方なく何方もしとどに袴の前を漏らすがまま。

  不図(ふと)何方からともなく、喜悦の声が。なんとも晴れやかである。

  互いに唯々嗤(わら)い始めた。

 「バカかお前は!」
 「お前だって!」
 「ところで我らは何故此処(ここ)にいる?」
 「しらぬ!」
 
 彼らの頭上で旋回していた大鷲が、当てが外れて飛び去って行った。


ゴヤ
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